緊急放流、八ッ場ダム…今こそ「治水」を語ろう コラム

2019年11月7日

11月7日 (加藤 拓磨 中野区議会議員 10月14日アゴラ掲載)

東京都議会議員の川松真一朗(自民党)氏の記事「ダムで行われた緊急放流の役目とは:開業前の八ッ場ダムも活躍」を拝読しました。

私は現在、中野区議会議員ですが、30歳まで水問題の研究者である中央大学理工学部の山田正教授の研究室に所属し、その後、民主党時代には国土交通省 国土技術政策総合研究所の河川研究部研究官として務めていました。そのときの想いも込めて、これまで国で議論されてきた治水に関する提言などについて、紹介させていただきます。

一般読者向けのため、噛み砕いた内容になり、いささか誇張表現もあり、専門家の方々にはお叱りを受けるかもしれませんが、ご了承願います。


神奈川県の城山ダム(Wikipedia:編集部)

 

2018年12月14日、国は「重要インフラの緊急点検に関する関係閣僚会議」で閣議決定し、国土強靭化に向けて、洪水のみならず、すべての災害に対しての防災力の向上に努めているところです。

治水(洪水を抑える機能)を考えるときはまずは気象から考えます。

閣議の資料でも赤字で示されるように気候変動が気象与えるインパクトは大きく、今後、洪水を抑え込むことがより困難となってきます。

地球温暖化予測情報 第9巻(気象庁・2017年)においては台風の個数は減少するが激化する、無降水日数が多くなるなどとされ、洪水・渇水のリスクが高まります。

河川は最大で200年に一度発生する洪水など(河川によって100年に一度など年数は異なる)に対して、河川整備を進めていくこととなっております。

東日本大震災が起こる前にはこの200年に一度というのが200年後に発生すると誤解される方もおりましたが、800年に一度の津波が発生したことにより、この確率年という概念が一般の方々にも大分浸透したと思われます。

しかし確率年に対する降雨量は過去のデータから算出されるものであり、将来における気候変動の影響が入っていないため、これまでの基本方針よりも危険に設定する必要があります。

外力の増加により、河川整備としては河道(かどう)の拡幅、ダム建設、堤防のかさ上げなどがさらに必要となり、八ッ場ダム、スーパー堤防もそのひとつであったわけです。

現在、四大文明という言葉の使用には疑義が生じているわけであるが、私としては、文明と河川をセットで紹介されていることを、人が生きる上における河川の重要性の説明に使わせていただいています。またriver(リバー)とrival(ライバル)の綴りが近いのは大雑把にいえば、同じ語源であるということから、水争いは大変厳しいという説明に使わせていただいています。

話は脱線しましたが、水争いのための戦争、水の管理を制した文明が発展しました。

人類の歴史は水の安定供給を求める歴史といってもいいです。ダムはその最たるもので、渇水に対しても大きな役割を担います。

ダムの大きな役割としては“利水”と“治水”と“環境”があります。

水力発電ダムとしての電力などの役割もありますが、“利水”と“治水”が特に重要です。利水とは水道用水、農業用水、工業用水など生活に必要な水を利用することです。その手法としてダムがあるわけであり、洪水・渇水の抑制をし、水の安定供給するために必要であります。


試験湛水中の八ッ場ダム(10月13日朝、国交省サイトより)

 

検証は必要ですが、今回の八ッ場ダムの湛水は少なからず、洪水抑制に効果があったと考えられます。
ハードとして、ダムの数を一定数確保することも重要ですが、ソフトとして運用の高度化が求められております。

まず一昨日報道された「緊急放流」はメディアで使われる用語で、専門的には「特例操作」と呼びます。
以前は「ただし書き操作」と呼ばれていたが、どういった操作か一般人にはわからないということで、2011年に国の通達により呼称が変更されました。

Wikipedia(特例操作)
ダム事典[用語・解説](ただし書き操作)

ここにあるように各ダムの操作規則で「ただし、気象、水象その他の状況により特に必要と認める場合」は通常ルールの限りではないということで、ただし書き操作は緊急ではありますが、ルール内ということになっています。

このルールは段階的に

ダム流入量(ダム貯水湖に入る水の量)=ダム放流量(ダムのゲートから吐き出す量)

にすることにより、ダム貯水位を上昇させずに最悪ダムの決壊などのリスクを抑制することを目的としております。

ダムがなかったら、河川に流入している量です。
ダムが決壊したら、その河川流域はどうなるか想像もつかない被害となります。
しかし、豪雨時にダム放流量を増加させると氾濫リスクは高まり、できるだけ避けたい事態であります。

そのためにメディアでも取り上げられたわけであります。
現場では気象、高潮予測などからタイミングを計る、決死のオペレーションがなされたに違いありません。

しかし今回は、雨のピーク時と思わる時間帯に緊急放流をするとはいかがなものかと思った方もいるかと思います。
事前にダムを空っぽにしていれば、それだけ雨のピークにため込めるのではないかと。

何故このような運用をするかといえば、利水容量を確保するというダムの役割があるからです。
もし台風による雨が全く降らなかったら、翌日から飲み水がなくなってしまうわけです。しかし、今の気象予測技術はこのルールがつくられたときは異なり、発展しております。

気象予測の不確実性も含めて、ピーク前にダムのポケットに余裕をつくる事前放流(山田正)という考え方ができております。

事前放流をした後に貯水量がどのくらい戻るか予測がある程度できる技術はありますので、ハードとソフト両面のスペックを引き出したスマートな治水を行っていく必要があります。

一方で、ダム運用だけでは不十分であり、河川の整備も必要です。

堤防は線で一箇所でも越水、決壊することは許されませんが、土の塊であるため砂場遊びで砂山に上から水を流すが如く、一線を越えるとあっという間に壊れてしまいます。

そこで一つの手法として、事業仕分けでも有名になったスーパー堤防(高規格堤防)があります。

住民の生活再建をしっかりとご相談させていただきながらの事業の為、非常に時間がかかりますが、洪水対策として有用な方法であります。簡単にいうと堤防という構造物ではなく、スーパー堤防という地形に変えてしまうもので、洪水で破壊されることがなくなるものであります。


国交省荒川下流河川事務所HP
より

 

地域ごとに事情が異なるため、調査・研究が行われ、地域に合わせた手法が実行に移されております。
万が一ではなく、800年に一度を経験し、映像として目に焼き付いた今の日本人であれば、持続可能な国家をつくるために何が必要なのか地域ごとにご理解をいただけたらと思います。

 

加藤 拓磨   中野区議会議員 公式サイト


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