建築基準法と地震時の安全対策 コラム

2017年11月24日

11月24日

福岡大学 工学部 建築学科 教授
高山 峯夫

BELCA(10月号、ロングライフビル推進協議会)の巻頭言に工学院大学の久田嘉章教授が『建築基準法と地震時の安全対策』と題して寄稿されている。

最近、建築基準法を基本とする国の安全対策の限界を痛感する機会が増えている。

まずは、千年に一度という超巨大地震である2011年東北地方太平洋沖地震の教訓を踏まえた「超高層建築物等における南海トラフ沿いの巨大地震による長周期地震動への対策(国土交通省、2016年6月)」である。大阪・名古屋・静岡の湾岸地域では従来の基準法の告示レベルの2倍の長周期地震動を考慮した設計が求められている。

この対策は内閣府による「南海トラフ沿いの巨大地震による長周期地震動に関する報告(2015年12月)」をもとに、1707年宝永地震と1854年東海地震による地震動の推定結果から振幅レベルを決定している。基準を担当する国交省と異なり、防災を担当する内閣府には発生確率を度外視した最悪の結果を提示して対策を推進する役割がある。

考慮した二つの地震も南海トラフ地震の中でも極めて稀な超巨大地震であり、千年に一度の最悪の地震に近い。基準を2倍にしても設計は可能であるが、ダンパーを過剰に付加するなど、従来の基準の建物の耐震性能を悪化させる可能性があり、実質は免震建築物等の禁止令に近い。可能性の極めて低い地震動で設計させておいて、可能性の高い地震動の性能を悪化させる政策に、何の意味があるのだろうか?

実際には民間はもっと進んでおり、基準法を超える地震動レベルを考慮した建物の余裕度検証や、基準を超えた場合のフェールセーフ機能の開発などの対策は広く行われ、この分野では世界の最先端である。国は数千年に一度という最悪地震にも対応可能な、世界に先駆けた技術開発と対策を誘導した方がはるかに建設的と思う。

次の例は、数千年に一度という活断層帯の地震である2016年熊本地震の教訓を踏まえた「益城町の市街地復興に向けた安全対策のあり方等に関する最終報告書(国土交通省、2017年3月)」である。そこでは「活断層のズレに対する安全対策」として、「低層建築物では新築される建築物について特段の追加的配慮は必要ない」としている。
IP160504TAN000235000
天然記念物とするよう答申された布田川断層
国交省の安全対策とは「倒壊しないこと」に過ぎず、一般市民が考える安全とは大きなズレがある。実際、熊本地震では倒壊等による直接死は50人であるが、大勢の住民が避難所・仮設住宅での生活を余儀なくされ、災害関連死は200人を超えている。全半壊した家屋は4万2千を超え、その復旧に膨大な時間と公費が投入されている。活断層のズレに対しても、べた基礎や耐震壁など高い耐震性をもつ建物には甚大な被害が生じないことは熊本地震でも確認されている。活断層の近くであれば、「耐震性能を向上させる追加的配慮」を推奨すべきだと思う。

建築基準法は全国一律の最低基準であり設計目標ではない。今の社会が望む基準や指針は設計者・技術者の合意の上で主体的に決めるべきだと思う。海外では最近、「性能設計」から「建物の復旧性能に基づく設計法(Resilience-Based Design)」が提唱されており、国・民間が協働した設計指針や建物の認証制度が始まっている。今後、基準法を超える指針や認証制度の重要性は益々重要になると思う。

ここに書かれていることは、まさにその通りである。
建築基準法は最低基準とされ、法に適合していれば建築できることになっている。しかし、長周期地震動では、国交省が出した長周期地震動波形を使って設計しないといけないことになっている。基準法のレベルを大きく超える地震動を使って設計しないと建築させないということらしい。これは、法のダブルスタンダードではないのか。

そろそろ、建築基準法という枠組みを大幅に見直す時期ではないだろうか。この機会に、膨れ上がった法体系をスリム化し、民間に任せてみてもいいのではないだろうか。あわせて国は耐震問題や防災に対する技術開発への積極的な支援をしてもらいたいものだ。


関連ニュース