善意で流す「情報」の落とし穴【関東大震災の教訓】 防災ニュース

2022年4月11日

4月11日 自然災害や紛争、感染症の流行など社会の混乱に乗じて流布されるものに「流言(デマ)」があります。特にここ最近はSNS上での拡散が著しく、AIを使った悪質なフェイクニュースの広まりが指摘されるなど、情報を正しく捉えるファクトチェック(事実確認)の重要性が強くうたわれています。
しかし、こうしたデマの問題は、実はインターネットが普及したから起きているわけではありません。もっと古くから――100年も前に発生した関東大震災でも、大きな問題となっていたのです。

関東大震災は、1923(大正12)年9月1日午前11時58分に発生しました。震源地は相模湾北部。いわゆる相模プレートが動くことにより生じた地震で、規模はマグニチュード(M)7.9と推定されています。近代化が進み始めた首都圏を襲った巨大地震は、ちょうど正午に差し掛かる昼時だったこともあり、130箇所以上の出火を引き起こし、大規模な延焼火災を招きました。炎はまる2日以上も燃え続け、9月3日の午後2時に鎮火。火災で気温が上昇し、1日夜は46度にまで達したともいわれます。プレート地震であったことから津波も襲来し、余震も3日余りで900回を超えました。東京府を中心に、神奈川、千葉、埼玉、茨城、静岡、山梨に被害が広がり、被災者は人口の3割にのぼりました。横浜市に限れば実に93%、東京市で75%が被災したとされています。

 

内閣府「災害教訓の継承に関する専門調査会報告書 1923関東大震災」より 住家全潰率と震度の分布。破線は推定された震源断層の地表への投影を示す

 

内閣府「災害教訓の継承に関する専門調査会報告書 1923関東大震災」より 焼失・流失・埋没率と主な被災地の被害数

 

関東大震災により大混乱に陥った首都圏では、数多くのデマが流れ、混乱に拍車をかけました。よく知られているのが外国人による武装蜂起や放火、井戸水に毒を入れたなどの情報です。それ以外にも、西洋で地震を起こす機械が発明され日本に攻撃をしかけているなどの話もあったといわれます。このような、冷静に考えればありえないようなうわさ話が、なぜ広がってしまうのでしょうか。

社会心理学的な観点からいうと、震災や戦争、感染症といった人との関わり方に大きな影響を与える混乱した状況が起きると、理解の範囲を超え先が読めない不安や、持って行く場のない怒りが増幅します。このとき、特定の集団へのステレオタイプ(固定化された観念)を刺激した情報は、完全にそうでないと否定する根拠の提示が難しい状況の中、平常時から潜在的に怪しいと感じている人にとって「納得しやすい情報」となり、流されやすいのです。

デマの流布は、実は、特定の集団を狙って貶めるために流されるわけではなく、善意で周囲を気遣うところから出発します。「震災が起きると犯罪も増えやすいから火事場泥棒に気をつけて」といった具合に身近な人が被災者を思いやって始まる情報が、いつのまにか根拠のない想像と結びつき、次々と広がっていくのです。

現在もデマは流されています。3月16日の深夜に発生した福島県沖地震でも、同様の情報がSNS上に投稿されました。SNSではその情報に賛同していない場合でも転送して言及することで拡散され、結果的に大きく広げる行為を助長してしまうことも少なくありません。

現在は合成技術が進んでいることもあり、一見どの情報が正しいのかわからないものも増えています。こうした中では「情報は真偽を確認してから」という姿勢ではデマの広がりを止めることはできないでしょう。

過去の災害など、大きな社会の混乱が起きたときにどのようなデマが流れていたのか、過去の教訓を知り、パターンを押さえておくことで、よく似た話を目にしたときに「もしかしたらデマではないか」と疑うことができるようになります。

震災から来年で100年目を迎える関東大震災。これから様々な形で過去の教訓を振り返る話が出てくるでしょう。このときぜひ流言にも注目し、現在のSNSをはじめとするメディアでどのように教訓を活かせるか、考えてみてください。

 

防災ログ事務局:南部優子


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