おかしいぞ!防災の常識 (Vol.5) コラム
4 地震の発生と被害の予測
災害対策研究会 宮本 英治 / 釜石 徹
4-1. 直下地震はいつ?どこで?どれぐらいの大きさで?
直下地震がいつ、どこで起きるかはわからない。ただ首都圏では関東大震災の発生間隔の200~400年の前半を静穏期、後半を活動期と呼び、活動期にはM6~M7クラスの直下地震が多発する。西日本では南海トラフ地震の前50年、後10年に各地でM6~M7クラスの直下地震が多発すると言われている。
4-2. 都心南部直下地震の発生確率は今後30年で70%?
首都直下地震は関東南部のどこで起きるかわからない。今後30年の間に関東南部(東京、神奈川、埼玉、千葉、茨城南部)のどこかでM7クラスの地震が1つ以上起きる可能性が70%である。都心南部直下地震は「もしも都心南部直下で地震が起きたら」の意味であり、以前の東京湾北部地震と同様、発生確率は不明である。
4-3. 海溝型地震はいつ?どこで?どれぐらいの大きさで?
海溝型地震は海側のプレートが陸側のプレートに潜り込む海溝付近で陸側プレートが跳ね返る場所で発生する。プレートの移動は爪が伸びるスピード(月に5mm、年間6cm、100年で6m、1000年で60m)で、M8クラスの南海トラフ地震は90年~150年間隔で発生しているが、いつ、どれぐらいの大きさかは起きてみないと分からない。
4-4. 幻の東海地震
海溝型地震が起きると、その周囲でマグニチュードが1つ下の規模の余震が起きることがある。東日本大震災で言えばM8クラス(=海溝型地震)が房総半島沖などで起きる可能性がある。昭和の東南海地震では静岡沖(=東海地震)が該当する。しかし東海地震は過去単独で起きた記録もない。終戦後70年。次の本震に備えるべきである。
※要補足
・房総半島沖も過去単独で起きたことはない。これが起きた場合は房総半島の太平洋岸に10m程度の津波が襲ってくる可能性がある。
4-5. 南海トラフ地震はいつ発生するのか?
前回は終戦(1945年)の前年に東南海地震、終戦の翌年に南海地震が発生した。南海トラフ地震はここ数百年では90年~150年間隔で発生している。前回の東南海地震が小さめであったので早まることもあり、次は「1945+90±α」年と考えられる。αは自分で考えるしかないが、10年とすると2035~2050年となる。
4-6. 起こりうる最大規模(レベル2=M9)とは:1000年に1回?
東日本大震災を踏まえ、南海トラフ地震でも起こりうる最大規模の被害想定が行われた。起こりうる最大規模とは、過去に起きたこともなく、未来永劫起きないかもしれない規模である。揺れはM9、津波はプレートの歪が途中で解放されることなく1000年間蓄積したとして60mの巨大すべりが発生したものである。起きたこともなく、起きないかもしれない。
4-7. ハザードマップを信用する?(自らハザードマップを作成できること)
シミュレーションを行う者が、その結果が正しいかどうかをどう判断するか?それは自分が予想した結果かどうかである。すなわち、計算しなくともおおよそのハザードマップを作成できる。標高、地形、さらに地名や神社・仏閣・貝塚の位置のなどから地域の危険性、安全性を自ら判断する能力を養うべきである。
4-8. 電力の復旧は早い?
阪神淡路大震災での関西電力は瀬戸内沿いの発電所は被害微であった。東日本大震災での東北電力は太平洋岸の女川・東通原発(330万KW)が停止したが、日本海側の880万KWの火力は無事であった。しかし首都直下地震では東京湾岸の火力が、南海トラフ地震では太平洋岸の発電所が被害を受け、広域停電または計画停電となる可能性が高い。
※要補足
・首都直下地震での東京湾沿岸の発電所被害について
・南海トラフ地震での中部電力、関西電力、四国電力の被害について
4-9. 電話不通の原因は輻輳?携帯の充電切れ?
東日本大震災の被災地で、携帯やスマホの充電が切れていないのに、いつの間にか電波がつながらなくなった。広域停電では携帯電話の基地局のバッテリーが数時間で切れ、固定電話の交換局も半日程度で不通となる。通話規制や輻輳ではなく、物理的に通信が不可能となる。インターネットも同様である。
4-10. 東京湾は火の海か?
かつて十勝沖地震で遠く離れた苫小牧の石油タンクが炎上した時から、関係者では東京湾火の海説が囁かれた。東日本大震災でも各地の沿岸で津波火災が発生、千葉・市原でも石油精製基地で大規模火災が発生した。全国にプラントがある。東京湾のみならず、南海トラフ地震では全国で大規模火災が発生する可能性がある。
4-11. 液状化はどこで?
阪神淡路大震災では液状化対策を行っていたところを含めて沿岸部が広域に液状化した。東日本大震災でも東京湾岸など元は海だった所や、河川沿いの地盤の弱い所など各地で液状化が発生した。首都圏では神奈川県北東部、東京都区部、埼玉県南部、千葉県の東京湾岸部に広がる標高5m以下(≒元は海だった所)は液状化する。
4-12. 都心南部直下地震(M7.3)の被害想定
・阪神淡路大震災の5~20倍
・ライフライン:発電所被害で長期に広域停電または計画停電。停電により通信不能・水道の配水ポンプ停止。ガス・水道埋設管被害は復旧まで数週間~数ヵ月
・交通:被災地内道路は通行禁止、幹線道路は長期に交通規制。鉄道は震度6強以上で大規模被害、復旧見込み立たず。
・支援活動:自衛隊、緊急消防援助隊、DMAT等は即日活動開始。
※要補足
・項目ごとの被害想定の詳細説明
4-13. 南海トラフ地震(レベル1)の被害想定
・東日本大震災の10~30倍
・ライフライン:発電所被害で長期に広域停電。停電により通信不能・ポンプ停止。ガス・水道埋設管被害は復旧まで数週間~数ヵ月
・交通:幹線道路の応急復旧に数日~数週間、交通規制は長期間。鉄道は震度6強以上で脱線、復旧見込み立たず。港湾も遺体捜索、流出物で長期に利用できない。
・支援活動:自衛隊、緊急消防援助隊、DMAT等の支援活動は空路からのみ。
※要補足
・項目ごとの被害想定の詳細説明
災害対策研究会