渡辺実のぶらり防災・危機管理 車は災害時の秘密兵器、新しいカーライフを体験 コラム

2017年6月19日

6月19日

三菱自動車が問うPHEVのある生活(前編)

現代生活と電気は切っても切れない関係だ。電気の安定供給という面で、日本は世界でもトップクラスの実力を持っている。その一方で「災害と停電」が切っても切れない間柄であることも事実。日本中で原発再開の是非が問われる今、電気のある生活について改めて見直していく必要がありそうだ。そこでカギとなりそうなキーワードが「V2H」。でも「V2H」とは何なのか?“防災の鬼”渡辺実氏が迫る。


“謎”の「V2H」の実態を調べるべく、今回お邪魔したのは三菱自動車の販売会社である関東三菱自動車販売の世田谷店。実はこの店舗、昨年10月に次世代店舗「電動 DRIVE STATION」として生まれ変わっている。

マイカーで乗り付けた“防災の鬼”渡辺実氏。車から降り立ってまずひとこと。

「(乗ってきた車が)ホンダ車でごめんね」

迎えてくれたのは三菱自動車国内営業本部国内企画部部長付の小野勉氏だ。

「どうぞどうぞ、どこのメーカーだろうと構いませんよ。そのかわり、三菱自動車のことも好きになって下さね(笑い)」

こちらの電動 DRIVE STATIONは最新の「V2H」を体験できる店舗だ。賢明なる“ぶら防”読者であれば「V2H」が何たるかはご存知だとは思うが、念のため簡単な説明を渡辺氏にお願いした。

「『V2H』とは、『Vehicle to Home』の略です。つまり直訳すると『車』から『家』へ。これからの車は走るだけが仕事じゃない。電気自動車(EV)やプラグインハイブリッド車は発電機やバッテリーを積んでいるけど、災害時にはこれらを被災生活のために役立たせようという試みです。そこで私がもっとも注目しているのが三菱自動車の『アウトランダーPHEV』なのです」

自然災害などで停電が起こり、家庭で電気が使えなくなった場合でも、「V2H」の仕組みさえととのっていれば慌てることはない。しかし、まだまだ普及しているとはいい難い状況だ。

「2016年4月に発生した熊本地震では実に48万世帯が停電しました。九州電力給電グループは3600人体勢で復旧にあたり、さらに沖縄から北海道まで全国の9電力会社からも応援が駆けつけた。おかげで完全復旧したのは5日後。『そんなにかかったのか』と思われる方もいるかもしれないけれど、世界的にみたらこのスピードは驚異的です。それだけ日本の電力会社の災害復旧力や技術力は高い」(渡辺氏)

ちなみに年間の停電時間は1世帯あたり、イギリスが約60分、フランスが約80分、アメリカのカリフォルニア州が約130分なのに対して日本は20分だ。こうしたデータからも分かる通り、日本の電気事情は飛び抜けて優秀なのである。

とはいえもちろん完璧ではない。電気の絶え間ない供給を可能にする有効なシステムが「V2H」なのである。

 

PHVとPHEVの違いって知ってますか?

「僕が注目するアウトランダーPHEVは、日本で初のプラグインハイブリッド車です」(渡辺氏)

話を整理するために、まずハイブリッド車(HV)とプラグインハイブリッド車の違いを充電の観点から簡単に説明しよう。トヨタ自動車の「プリウス」を代表とするHVは、基本的にはエンジンで発電機を回して発電している。このため、HVに搭載しているバッテリーには、外部から充電することはできない。

一方、プラグインハイブリッド車の場合は、外部からの充電が可能だ。家庭の100Vコンセントや街中にある「充電スタンド」で電気をバッテリーに供給できる。

そしてプラグインハイブリッド車というカテゴリーに分類される中には「PHV」と「PHEV」と呼ばれるものがある。この違いはどういったところにあるのか。

結論から言えば、技術的に大きな違いはない。トヨタの「プリウスPHV」とアウトランダーPHEVが現在のプラグインハイブリッド車の双璧だ。これまでの開発の歴史から、両社の考え方の違いが呼称に反映されている。

「トヨタのプリウスPHVは、どちらかというとハイブリッド車に近いイメージです。だからHVの前にPをつけたPHVという呼称を使っています。一方で三菱のアウトランダーPHEVはどちらかというと、電気自動車に近い。だからPHEVと呼んでいるわけです。どちらが優れている、というのではないのですが、プリウスの方はハイブリッドエンジンの補完として電気モーターを使い、アウトランダーの方は電気モーターの補完として内燃エンジンがある、という感じです」(渡辺氏)

小野氏がアウトランダーPHEVの実力を説明してくれた。

「アウトランダーPHEVはフル充電の状態からモーターで60㎞の走行が可能です。そしてバッテリーに溜まった電気を使い切るとエンジンが回って発電し、これをいったんバッテリーに充電し、モーターの駆動に使います。そういう意味で、渡辺さんがおっしゃったように、アウトランダーはハイブリッド車より、電気自動車に近いイメージです。もちろん、ガソリンエンジンで走りたいというユーザー様の要望にもお答えできるように、モーターではなくエンジンだけで走るモードを選択することもできます」

フル充電で60㎞の走行。通勤や日常的な買い物であれば1日にこれだけ走れば十分だ。朝家を出て、夜に帰ってきて充電する。これを繰り返せばずっとガソリンを使わない自動車生活も不可能ではないのだ。

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取材に対応してくれた三菱自動車国内営業本部国内企画部部長付の小野勉氏(左)

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防災・危機管理ジャーナリスト/株式会社まちづくり計画研究所 代表取締役所長/技術士/防災士
渡辺 実

1974年工学院大学工学部建築学科卒業。公益社団法人日本都市計画学会、一般財団法人都市防災研究所等を経て、1989年に株式会社まちづくり計画研究所設立、代表取締役就任。
国内外の自然災害被災地、大規模事故現場へ足を運び、被災者、被害者の立場にたって問題や課題をジャーナリスティックに指摘。現場体験をベースに、災害報道の検証や防災対策についても国民サイドにたった辛口の提言を続けている。
2007年より、NPO法人日本災害情報サポートネットワーク理事長としても活動。

◇主な著書
『巨大震災その時どうする?生き残りマニュアル』(日本経済新聞出版社) 2013
『都市住民のための防災読本』(新潮社) 2011
『大地震に備える 自分と大切な人を守る方法』(中経出版) 2011


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