防災と地図は切っても切れない仲(2) コラム
2017年1月29日
1月29日、地図の最大手ゼンリン。後編は同社が現在行っている各地方自治体との地図協定だ。本稿前編でも述べたが、有事の際、地図は必須のアイテムとなる。ただ、いつ起こるかわからない災害のために日頃から備えておくのはなかなか難しい。であればこちらから仕掛けましょう、とゼンリンは動き出した。その取り組みについてお伝えする。
”防災の鬼”渡辺実氏は次のように語る。
「ゼンリン住宅地図の実物を見るとわかるけど、地図上に住宅など建物の形に加え、各家に住んでいる人の名前(名字)まで書き込まれています。これはゼンリンのスタッフが足で歩いて、表札を見て作っている。だから表札で公開されている個人情報を基にして名字を記載しています。こうした詳細な住宅地図を国民が自由に入手にできる国はありません。紛争地帯などに行くと、住宅地図などもってほのか、そんなもの民間が作ることはあり得ません。まさに地図は平和の象徴なのです」(渡辺氏)
実はゼンリンの歴史も、そうした思いに貫かれている。1948年創業のゼンリン。社名は隣国や近隣と親しくすることを意味する「善隣友好」に由来する。社名には創業者の「平和でなければ地図作りはできない」という思いが込められているのだ。
思いは日々形にされている。現在同社は全国の自治体と災害時支援協定を結ぶ取り組みを遂行中だ。
「協定内容の1つが『地図の備蓄』です。全国に1700以上ある地方自治体と協定を結んで、有事の際に必要となる地域の住宅地図5セットを箱におさめて備蓄してもらうのです。他にも通常使用が可能な広域地図5枚と、インターネット住宅閲覧サービスのIDもおつけします。『災害時支援協定』として、現在順次各自治体と協定の輪を広げています」(ゼンリン 上席執行役員 第一事業本部長の山本勝氏)
東日本大震災を教訓に2013年に始まった『災害時支援協定』は現在299自治体(2016年12月末現在)にまで広がっている。
ゼンリンのスタッフが全国の自治体を1つずつ訪ね、協定の意義について説明、趣旨に賛同してくれた自治体に住宅地図などを無償貸与するのだ。
ただし、ここで終わらないのがゼンリンのすごいところ。貸与した住宅地図は最新版が発行されれば取り替え続けるのだという。これをゼンリンは無償で行っている。
「東日本大震災で、地図は発災のその日、その瞬間に必要になるというのを学びました。ところが手元にない自治体が多かった。そうしたところから、少ないけれども、最新の地図を常にストックしてください、という“地図備蓄の協定”を始めたわけです」(山本氏)
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渡辺 実(わたなべ・みのる)
防災・危機管理ジャーナリスト/株式会社まちづくり計画研究所 代表取締役所長/技術士/防災士