(後半)「 熊本地震再考 」 コラム

2017年2月9日

2月10日

極地研究所・総合研究大学院大学 名誉教授
神沼 克伊

 
活断層帯域
 今回の熊本地震の震源地は「別府ー島原地溝帯」と呼ばれ、九州をほぼ南北に分ける断列帯にあり、多くの活断層の存在が知られている。特に前震、本震が起こった地域は布田川断層帯(長さが20キロ)、その南には日奈久断層帯(長さ40キロ)が並んでいる。そして前震、本震とも布田川断層に沿って発生している。そして余震の多くは、ほぼ平行に走るこの二つの断層付近に集中していた。ただ前述のように、大分県北部と南阿蘇村付近にも地震が集中し、気象庁はそれらの地震も余震と解釈していたのである。

 大分県北部の地震が起こっている地域は別府ー万年山(はねやま)断層帯と呼ばれる小さな活断層の集中地帯である。本震の発生によりこの地域の歪のバランスが崩れ、小さな活断層が動き地震を起こしたのである(と私は解釈した)。 同様に南阿蘇村付近の群発地震も、阿蘇火山体内の群発地震と解釈した。大分県の群発地震はM5クラスの地震が二つ、南阿蘇村では三つが発生し、主震群を形成していた。

 群発地震だから普通の余震活動とは異なり、本震発生から一週間以上が経過しても地震が減ることはなかった。さらに地震は日奈久断層延長上の南西端付近(図C)でも頻繁に起こるようになった。その地震群の領域は本震の余震域とほぼ重なる形で南西方向に拡大している。4月19日にはM5.5とM5.5の二つの地震が起こったが、この地域は小さな活断層群が存在している。私はこの南西端付近の地震活動も群発地震だと考えている。
 整理すると次のようになる。
 1.4月14日 前震発生
 2.4月16日 本震発生 時を同じくして東側の二つの群発地震(A,B)が活動開始
 3.4月19日ごろから南西端側(C)の群発地震発生。

 地震は発生に際し「本震-余震型」だとか「群発型」とか宣言して起こるのではない。すべてはこれまでの経験から研究者が勝手に分類するのである。だから今回起こった現象をどう解釈するかで見方が変わってくる。

 前震ー本震ー余震型ならばその余震活動は10~20日間ぐらいでほとんど終息する。ところが群発地震が重なり終息する気配がないので、「地震活動はしばらく継続する」と発表した。その後「余震」という用語も使わないようになった。これは群発地震が発生していることを理解できなかった気象庁の未熟さに起因する。

 発生している群発地震が終息しないので、困った気象庁は地震活動の継続ばかりでなく、「本震と同程度の大きさの地震が起こる可能性がある」と発表した。この発表は噴飯ものである。起こっている群発地震の主震群はM5台である。M7の地震が起きるとは考えにくいのにこのような発表をした。被災された方々はこれらの発表にずいぶん心配されたことだろう。

 
前震―本震の予測
 今回の地震で多くの研究者がショックを受けたのは、M6.5の地震に続いて、M7.3の地震が起きたことである。M6.5、震度7、断層も現れたらしいとなれば、この地震を本震とする本震-余震型地震と考えて不思議ではなかった。ところがM7.3の地震が発生し、震度7の揺れを記録し、さらなる被害が発生した。

 起こった後になって考えれば、M7.3の地震が起こっても不思議はなかった。なぜならば震源地付近は活断層が並んでいる地域だからである。阪神淡路大震災以来、活断層は注目されている。特に原発に関しては、活断層の有無に関し、あまりレベルの高い議論とは思えない論争が続いている。

 そんな視点で見れば、M6.5が起こったとき、なぜ付近の活断層の動きに注目しようとする人がいなかったのか、気象庁はこの活断層群をどうとらえていたのか、不思議である。

 ある地震研究者はあちこちで群発地震が起こったのを,「タガが外れた」と表現した。前震の地震が発生し、別府ー島原地溝帯の活断層群の地下の歪のバランスが崩れ、短時間で活動をしたのが、今回の本震ー余震と3つの群発地震活動である。このように解釈すれば、今回の活動は「平成28年・別府ー島原地溝帯地震活動」と呼ぶのが起こった現象を忠実に表している。

 気象庁が群発地震を認識できなかった例はほかにもある。2004年の「新潟県中越地震」はM6.8を本震として、M6台の余震4回を含み多くの余震が起こったとされている。私はこの地震を「M6台の5個の地震を主震群とする群発地震」と考えるべきと、あるテレビで解説した。それを聞いた司会者がその後気象庁関係者に「群発地震ではないか」と質問したら、恐ろしい剣幕で否定していた。気象庁は一度発表したものは、どんなに間違っていても訂正する気はないらしい。

 群発地震と解釈したほうが、M6台と本震と同じ程度の余震が4回も起きていることも説明できるし、地震活動が長く継続していることも説明できる。そして地震発生領域には数多くの活断層が存在しており、群発地震の起こりやすい地域である。

 
気象庁の迷走の原因
 このように最近の気象庁の発表には首をかしげたくなる内容が少なくない。その理由は気象庁のディジタル化が原因と考えている。東日本太平洋沖地震発生直後、気象庁は(10メートルを超えるような)大津波は襲来しないと発表した。後日の調査でこの発表を聞いて、津波はたいしたことはないと考え避難せず、命を落とした人が少なく無かったという。気象庁は沖合の潮位計だか波浪計が6メートル程度の数値を記録したから、津波はたいしたことはないと判断したという。つまり器械の数値に頼った判断である。

 アナログ時代の気象庁は三陸沖で大地震が起これば必ず大津波が襲来するとしていた。これが事実である。だから「三陸沖で大地震発生」と判断できたはずであるから、すぐ大津波の対策を呼び掛けるべきであった。しかしディジタル時代になり、かっての知識は忘れ去られたらしい。
 2014年の御岳山の噴火の時も,山体内で1日に50回、80回という群発地震が起こっているにもかかわらず、(その後は地震の数が減ったので)ほとんど注意らしい注意を発せず、あの悲劇になった。

 この度重なる失敗で、気象庁は安全運転にかじを切ったようだ。無意味とも思える警報や注意報を出している。例えば2015年の箱根山の群発地震活動では、長期にわたりロープウエーの運航を停止させるような処置をとった。「人命優先」を掲げられると、誰もまともに反論しにくい。しかし起こっている現象を理解しようとせず、ただ記録された数値だけで判断するのでは、今後も迷惑情報が発せられるだろう。
 
※図の説明 2016年4月14日~12月12日までの熊本地震の震源分布(原図は気象庁)


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