巨大地震への備え(2)南海トラフ地震は3つのケースで対応を 防災ニュース
2022年4月1日
4月1日 前回の記事で、気象庁から発表される「南海トラフ地震臨時情報」について解説しました。
南海トラフ地震臨時情報は、南海トラフ震源域で「半割れ」「一部割れ」「ゆっくりすべり」などの異常現象が観測され、その現象が南海トラフ沿いの大規模な地震と関連しそうな場合に気象庁から発表されます。
この発表を受けて、私たちはどのような対応をとればよいのか、基本的な考え方や住民、自治体、企業別の心得などを示しているのが、2019年3月に策定された「南海トラフ地震の多様な発生形態に備えた防災対応検討ガイドライン(第1版)」です。
今回は、このガイドラインが誕生した経緯とあわせ、先に紹介した異常現象の3つのケースについてみていきましょう。
太平洋沿岸で発生する確率が高いとされている南海トラフ地震は、過去にも繰り返し発生する海溝型地震で、2022年1月時点の長期地震評価は「M8~9程度 ランクⅢ」と最も高い確率を示しています。
南海トラフの震源域は駿河湾から日向灘にかかり、広大です。このため、どの部分が震源域になって地震が発生するかわかりません。さらに、ある箇所で発生した揺れが他の震源域へ影響し、時間差で巨大な地震が発生する可能性もあります。
このため、政府は、2018年3月に「南海トラフ沿いの異常な現象への防災対応検討ワーキンググループ(異常現象WG)」を設置し、南海トラフ沿いで異常な現象が観測された場合の防災対応のありかたを検討しました。
この検討結果を基にして2019年3月に策定されたのが「南海トラフ地震の多様な発生形態に備えた防災対応検討ガイドライン(第1版)」です。
同ガイドラインには、地方公共団体や企業などが、南海トラフ地震の発生可能性が相対的に高まったと評価された場合に実施すべき防災対応を計画にまとめるときに必要な情報が以下の構成で記載されています。
・共通編(基本的な考え方や国が発表する情報の流れ)
・住民編(住民および自治体の対応)
・企業編(指定公共機関などの対応)
ガイドラインで扱われる地震は「半割れ」「一部割れ」「ゆっくりすべり」の3ケースです。
「半割れ」
・南海トラフの想定震源域内の領域(7割程度まで)で大規模地震(M8.0以上)が発生
・残りの領域で大規模地震発生の可能性が相対的に高まったと評価
・時間差をもたずに想定震源域の7割程度以上が破壊された場合もこのケースとして扱う(※)
・1944年総和東南海地震(M8.2)⇒1946年昭和南海地震(M8.4)約2年後
・1854年安政東海地震(M8.6)⇒安政南海地震(M8.7)約32時間後
※想定震源域の7割程度以上が破壊された場合、おおむね想定震源域全体が破壊されたとみなす
「一部割れ」
・南海トラフの想定震源域内のプレート境界でM7.0以上M8.0未満の地震が発生
・想定震源域のプレート境界以外や海溝軸外側50km程度までの範囲でM7.0以上の地震が発生
・世界で同様の地震が発生した事例は7日以内6事例、3年以内14事例
「ゆっくりすべり」
・ひずみ計などで有意な変化として捉えられる、短い期間にプレート境界の固着状態が明らかに変化しているような通常とは異なるゆっくりすべりが観測された場合
それぞれのケースについて、南海トラフ地震の発生が高まった場合の社会的な影響、覚知した場合の住民及び自治体の対応、企業の対応、最も警戒すべき時間が整理されています。
このガイドラインが整備されてから2カ月後、ちょうど令和に変わったばかりの2019年5月には、「南海トラフ地震防災対策推進基本計画」へも南海トラフ地震の発生可能性が相対的に高まった場合の防災対応が盛り込まれました。
またこれに伴い、気象庁が「南海トラフ地震臨時情報」を整備し、発表を開始し、現在に至ります。
サムネイル画像:政府地震調査研究推進本部 主な海溝型地震の評価結果 2022年1月13日公表
https://www.jishin.go.jp/evaluation/evaluation_summary/#kaiko_rank
本文参考資料「南海トラフ地震の多様な発生形態に備えた防災対応検討ガイドライン(第1版)」
http://www.bousai.go.jp/jishin/nankai/pdf/honbun_guideline2.pdf
防災ログ事務局:南部優子