南海トラフ地震臨時情報、誤解してませんか|後発地震の可能性は何%? 防災ニュース

2023年11月14日

<11月14日投稿>今後数十年といった近い将来、太平洋側の広い範囲でマグニチュード8.0以上となるような巨大地震が発生するとされています。「南海トラフ地震」です。いつどんな規模の地震となるのか確度の高い予測は困難ですが、プレート型地震の場合、繰り返し発生することがわかっています。このため、観測の精度を上げ、ふだんより巨大地震が発生しやすい状態になっていると判断された場合、気象庁より「南海トラフ地震臨時情報」が発表される仕組みも始まっています。

この「南海トラフ地震臨時情報」が発表された場合の認識について、関西大学の研究チームが調査したところ、巨大地震警戒が発表された場合の後発地震の発生確率を正しくとらえていた人は1割にも満たなかったことがわかりました。調査では、南海トラフ地震臨時情報(巨大地震警戒)が発表された際に、どの程度の確率で1週間以内に大地震が発生すると思うかを尋ねました。すると、国の想定では約7%ですが、8割以上の人が25%以上と回答したのです。また、臨時情報が発表されても後発地震が起きない可能性もあることを知らなかった人も半数以上にのぼりました。

情報を誤った認識のままにしておくと、実際に発表されたときに混乱を招き、正しい行動がとれなくなるばかりでなく、「どうせまた空振りだ」とバイアスが働くなど、その後の行動を長期にわたって歪めてしまうおそれすらあります。みなさんの職場や家庭では、南海トラフ地震臨時情報をどの程度理解しているでしょうか。以下に、南海トラフ地震臨時情報でよくある誤解を挙げつつ、概要を解説します。みなさんでチェックしてみてください。

■誤解1 臨時情報は南海トラフ地震の発生を予知している
駿河湾から日向灘まで広がる南海トラフの臨時情報というと、2004年から2017年まで発表されていた東海地震に関する情報(予知情報・注意情報・観測/臨時・定例調査情報)のイメージが重なって、「これから南海トラフ地震が来る」という予知情報のように思われがちですが、南海トラフ地震臨時情報は予知ではありません。南海トラフ地震臨時情報は、南海トラフの震源域で「半割れ」「一部割れ」「ゆっくりすべり」などの異常現象が観測され、その現象が南海トラフ沿いの大規模な地震と関連しそうな場合(南海トラフ沿いの大規模地震の発生の可能性が平常時と比べて相対的に高まったと評価された場合)に発表される情報です。つまり、「いつもと異なる現象」をもとに「もし巨大地震が発生したらこう備えよう」と警告する情報といえます。

■誤解2 臨時情報が発表されたら巨大地震になる
南海トラフ地震臨時情報は、南海トラフの動きに関する情報全般が含まれます。情報には「南海トラフ地震臨時情報」と「南海トラフ地震関連解説情報」があり、異常が観測された場合、まず「南海トラフ地震臨時情報(調査中)」が、発生後5分から30分ほどの間に気象庁から発表されます。(調査中)の発表後、検討会が開かれ、最短2時間ほどで、地震発生の可能性の大きさに応じて、「南海トラフ地震臨時情報(巨大地震警戒)」または「南海トラフ地震臨時情報(巨大地震注意)」が発表されることになっています。地震発生の可能性が小さい場合は「調査終了」となります。

■誤解3 臨時情報が発表されたら必ず逃げなければいけない
南海トラフ地震臨時情報は、あくまで「いつ巨大地震が発生するかもしれない危険性が高まった間、どのように構えるか」を、企業や住民、自治体がそれぞれの立場から心得ておくためのものです。南海トラフ地震臨時情報にはさまざまな種類があるわけですから、情報の内容に応じてとるべき行動が変わります。臨時情報が発表された場合の行動については、2019年5月31日より「南海トラフ地震の多様な発生形態に備えた防災対応検討ガイドライン(第1版)」が運用されています。
このガイドラインには「半割れ」「一部割れ」「ゆっくりすべり」の3つのケースについて、南海トラフ地震の発生が高まった場合の社会的な影響、覚知した場合の住民及び自治体の対応、企業の対応、最も警戒すべき時間が以下の構成で記載されています。
・共通編(基本的な考え方や国が発表する情報の流れ)
・住民編(住民および自治体の対応)
・企業編(指定公共機関などの対応)

本文参考資料「南海トラフ地震の多様な発生形態に備えた防災対応検討ガイドライン(第1版)」
http://www.bousai.go.jp/jishin/nankai/pdf/honbun_guideline2.pdf

■誤解4 南海トラフ地震が来る前には必ず臨時情報が発表される
南海トラフ地震臨時情報は、必ず地震が発生すると予知する情報ではありません。逆にいえば、臨時情報が出ないまま突然、巨大な地震が発生する可能性も十分に考えられます。臨時情報が発表されてからでは準備も整いません。先述したガイドラインを読んで、どのような備えが必要なのかを確かめ、情報や備蓄、対応方法などを今のうちに整理しておきましょう。

■誤解5 南海トラフ地震臨時情報が発表されたら連続して巨大地震が起きる
南海トラフで巨大地震が発生すると、1週間以内に連続して大規模地震が発生する確率はふだんよりは高まりますが、必ず起きるわけではありません。東北大学災害科学国際研究所・京都大学防災研究所・東京大学地震研究所からなる研究チームによると、想定震源域全域の半分程度を破壊するような巨大地震(マグニチュード8以上)が発生した後、もう一つの巨大地震(後発地震)が続いて発生する確率は、1週間以内に発生する確率は約2~77%だとしています。これは、平時の確率と比べて約100~3,600倍で、かなり高いものです。(国の想定では、1回目の地震後1週間以内に連動して大きな地震が起きたケースは過去に103回中7回あり、この頻度を前提とし約7%としています。)臨時情報が発表されたら「必ず起きるわけではないが、いつもよりは起きやすくなっている」と認識し、ふだん以上に地震へ備え、心構えをもちましょう。

■誤解6 南海トラフ地震は想定を最悪にしただけ、そんな巨大な地震は起きない
南海トラフは、駿河湾から日向灘までの太平洋側に長く横たわるプレートで、これまで100~150年ほどの間隔で繰り返し大規模地震が発生してきました。南海トラフの震源域ではこれまでにも時間差で連続して地震が発生した例(1854年安政東海地震・南海地震は32時間の間隔、1944年昭和東南海地震と1946年昭和南海地震は2年の間隔)があります。現在の技術では地震の発生を事前に予知することは困難ですが、海溝型の場合、プレートの動きに何らかの異常があれば地震が発生しやすくなっていると評価することはできます。現在は、今後30年以内に発生する確率が70~80%と、大規模地震の発生が切迫しているとされています。これらを踏まえて発表されるのが「南海トラフ地震臨時情報」なのです。

地震の発生を正確に予測することはできません。後発地震が発生するかどうかも不確実です。ただ、南海トラフの震源域で巨大地震が連続して発生する可能性があることはわかってきています。だからこその事前対策であり、いつどこで地震が発生しても冷静に行動できるよう、臨時情報をはじめとした情報をもとに行動することがとても重要となるのです。

防災ログ事務局:南部優子


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