大阪北部地震 都市部特有の課題への対策は進んでいますか? 防災ニュース
2024年6月20日
<6月20日投稿>関西方面での大地震としてまず思い浮かべるのは、1995年1月17日に発生した阪神・淡路大震災でしょう。日本の地震災害対策が大きく動き出したきっかけともいえる災害でした。それから23年後、ふたたび関西で大きな地震が発生しました。2018年6月18日の大阪北部地震です。阪神・淡路大震災と比べると地震の規模も小さくてすみ、また、四半世紀近く経つ間に進んだ耐震などの対策により人的被害・物的被害は軽減されたといえるものの、その一方で、都市での地震対策の課題が明確になった災害となりました。
大阪府北部地震は、2018(平成30)年6月18日午前7時58分に発生、マグニチュード6.1の規模で、大阪市から大阪府北部にかけて最大震度6弱、大阪府、京都府、滋賀県、兵庫県、奈良県の一部で震度5弱以上を観測しました。この地震による死者は6名で、うち2名はブロック塀が崩れたことによる被災でした。住家被害は全壊21棟、半壊454棟、一部損壊約5.7万棟で、停電は最大で約17万戸になりました。
人的被害や建物被害の数字でみるとそれほど大きな地震のように感じられないかもしれませんが、この地震で最も深刻な影響が出たのは都市交通でした。地震発生が朝の通勤時間帯だったこともあって、終日交通が麻痺するなど都市空間のリスクが浮き彫りになりました。
都市部では、交通の柱となるのは大量輸送が可能な鉄道です。地震で鉄道が運行停止となった場合は、安全確認の点検を行った上で順次再開となるのですが、突然止まった車両に残された多数の乗客が避難するまでに相当時間がかかった上、異なる鉄道会社の相互乗り入れが進んでいることから、点検が終わった区間でもすぐに運行再開させるのが困難となるなど、路線などの被害が少なかったにもかかわらず運休が長引いてしまいました。
すべての電車が線路上で突然止まったことから、遮断器が降りたままの状態になってしまい、線路で生活道路が封鎖された状態になってしまったほか、鉄道の運行停止に伴って自家用車に切り替えて出社する車両や、通行止めになった高速道路から流入してきた車両によって交通渋滞が平時と比べて最大で約7倍もの規模となり、解消までに14時間もかかりました。
朝の通勤時間帯だったことで、人々の動きも混乱しました。なんとかして出社しなければならないと考えた通勤者(出勤困難者・帰宅困難者)が自家用車やタクシーを使ったり、歩道からあふれて歩きだしたりして道路にも影響が出ました。渋滞することにより、緊急的な救急やライフライン復旧などの災害従事車両が通行できなくなるなどの影響も出ます。現に、大阪北部地震でも、エレベーターの閉じ込めからの救出に駆けつける保守員の到着が渋滞などの原因で遅れたため最大で5時間以上もかかったケースがありました(平均は80分)。
こうした地震による混乱を教訓に、交通管理者や道路管理者、行政などの各機関では、都市部における地震対策の取り組みとして、救助救急・物資搬送などの輸送活動を円滑に進める対策の強化も図っています。企業防災に対しても、帰宅困難・出勤困難対策として「むやみに外に出ることはかえって災害対応を妨げる」という概念が浸透しつつあります。例えば災害対応のために勤務地へ参集する場合でも、業務別に参集者と自宅待機者を分けて段階的な参集体制を構築する、災害発生時の情報共有方法をシステム化して参集に頼らず迅速な状況把握と指揮命令ができる体制をつくるなどの整備が進みつつあります。
特に情報共有方法については、この地震から1年半あまり経って起きた新型コロナウィルス感染症のパンデミック対策によってリモートコミュニケーションの技術が大きく浸透したこともあり、現在の災害対応では、「這ってでも参集する」という力任せの災害対応から、各自がその場ですばやく情報を正確に収集・把握し、的確な判断で対応する仕組みの構築へとシフトしてきています。
コロナ禍からようやく抜け出してきた昨今、ふたたび「同じ場に集まることの良さ」を噛みしめるビジネスシーンも増えてきましたが、リモートコミュニケーションによる情報共有や状況判断は災害対応では基本です。重要なノウハウとして、いざというときに備え環境を改良していきたいものです。
大阪北部地震のような規模の災害は、来たるべき巨大地震の実地での対応の検証の場でもあります。日本全国で発生するさまざまな災害が「いずれ自分たちのところでも起きる」と想定し、日々新しい知見を加えて訓練を行うなどして対応力の向上を図りましょう。
防災ログ事務局:南部優子