(前半)「 熊本地震再考 」 コラム

2017年2月8日

2月8日

極地研究所・総合研究大学院大学 名誉教授
神沼 克伊

 
はじめに
 2016年にも日本列島内では何回か被害を伴う地震が発生した。その中でも4月に熊本県で起こった地震は、2日間に震度7を2回も記録するという、珍しい出来事だった。続けて襲った震度7の揺れに、最初の揺れでは耐えた家屋も2度目の揺れで倒壊し、地震の大きさ以上に被害が拡大した。

 2016年4月14日21時26分、熊本県益城町で震度7を記録するM6.5の地震が発生した。2004年の新潟県中越地震(M6.8)に次ぐ、M6台の地震での震度7であり、震源の深さが11キロメートルと極めて浅いことに起因する。その2時間半後の15日00時03分に前の地震に相接する地点でM6.4の地震が続き、人々を不安がらせた。

 そして最初の地震から28時間後の4月16日01時25分に、北西に7キロほど離れた地点を震源としてM7.3の地震が発生した。震源の深さは12キロとやはり浅く益城町と西原村で震度7、周辺域では震度6(強、弱)、九州のほぼ全域で震度5(強、弱)を記録した。1995年の兵庫県南部地震(M7.3)に匹敵する大地震の続発に、気象庁をはじめ多くの地震研究者が驚いた。

 気象庁は直ちに14日に発生した地震を前震、16日の地震を本震として、前震ー本震ー余震型地震と説明した。余震は本震の周辺ばかりでなく本震から北東へ約50キロ離れた大分県北部や、約15キロ離れた南阿蘇村でも発生した。

 気象庁はこの地震を「平成28年(2016年)熊本地震」と命名した。そして地震活動の推移の見通しとして「地震活動はしばらくは続く可能性があり、本震と同程度の大きさの地震が発生することもある」という発表をした。この発表を聞いて筆者は気象庁の迷走が始まったと感じた。

 
地震の起こり方
 大地震が起こるとその震源域で小さな地震が続発する。その地震群を余震と呼ぶ。余震は本震で形成された断層面やその周辺で起こる。したがって余震の分布域には本震も含まれる。多くの地震は突然、一つの大きな地震が発生し、そのあとその地震よりM(マグニチュード)が1以上小さな地震が続く。突然発生した地震を本震、それに続く地震群が余震で、本震ー余震型地震と呼ぶ。人々が揺れを感ずるような余震活動はM6~7クラスが本震の場合、ほとんどは10~20日程度で終息する。もちろんM3以下の小さな余震は続くし、たまには揺れを感ずるようなM4以上の地震も起こるが、それでもほとんどの余震は1か月もすれば完全に終息する。

 ただし、東北日本太平洋沖地震のような超巨大地震の余震は、10年ぐらいは続くだろうと予想している。1891年に岐阜県を中心に発生した濃尾地震(M8.0)は、日本では史上最大の内陸地震であったが、発生から70年以上が経過しても、水平方向2メートル、上下方向6メートルの断層が出現した震源域ではM2~3の小さな余震が発生していた。

 それまで地震が発生していなかった空白域に突然、小さな地震が起こると、それに続いて大地震が起こる可能性がある。この最初にポツリと起こる地震を前震として、大きな本震の予想ができるだろう、つまり前震を検知することにより本震の発生が予測できないかと考えられ、地震予知の一つの手法として期待された時代があった。しかし実際には、地震の起こっていない地域にポツンと小さな地震が起こっても、大地震の前兆としての地震の検出は難しく、予知には使えないことが分かってきた。

 例えば2011年3月9日、宮城県牡鹿半島の東160キロの海底でM7.3の地震が発生した。当時宮城県沖では大地震の発生確率が高いと一部研究者が指摘していたので、予想通り大地震が発生した解釈された。ところがその2日後の3月11日、東北地方太平洋沖地震(M9.0)がおよそ20キロメートル南を震源として発生した。結局9日の地震はこの地震の前震と考えられ、前震ー本震ー余震型地震とされた。そして余震は現在も続いている。この時は本震がM9.0の超巨大地震であったので、前震もM7.3と大地震だったことは多くの研究者が納得したようだ。

 熊本では気象庁は本震後、余震は本震から離れた大分県北部(図A)や南阿蘇村(図B)でも起こっていると発表した。本震直後の混乱期は別として1~2日後ぐらいになり、余震の分布をみると、この二つの余震群は本震周辺の余震群とは明らかに離れている。本震との間には地震の発生していない領域があるのだが、その事実をどうして気が付かないのかと、筆者は気にしながら気象庁関係者のテレビ会見を見ていた。

 気象庁が余震と発表したこの二つの地震群は明らかに群発地震である。群発地震は本震(主震)と呼べるような地震が数個起こり、その主震群を中心に、その周辺で空間的にも、時間的にも小さな地震が続発する現象である。主震群の大きさはM5~6のことが多いが、海洋域ではM7の例もあった。継続する時間は、火山やその周辺地域などでは数時間と短い例もあるが、1965年~1967年の長野県で発生した松代(群発)地震のように、2年間も継続した例もある。また火山帯周辺では小さな群発地震活動が起こることがしばしばある。2015年に発生した箱根の群発地震がその例である。この時は約4か月間続いた。

※図の説明 2016年4月14日~12月12日までの熊本地震の震源分布(原図は気象庁)


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