訴訟に発展する前に打つべき対策とは【事例から学ぶ3.11の教訓】 コラム

2020年3月30日

3月30日 一度裁判になると膨大な時間と費用がかかります。さらに社会的な話題となってネガティブなイメージを広げてしまった場合、企業へ与えるダメージは致命的になります。東日本大震災で遺族側から集団訴訟を起こされたケースをいくつかご紹介します。敗訴あるいは勝訴となったポイントを教訓にして、これから起きる災害リスクに備えましょう。

■私立幼稚園(石巻市)
送迎バスが津波に流されたうえ、津波火災に巻き込まれて炎上し、園児5人と職員1人が犠牲となりました。遺族4組が園を提訴し、1審は約1億7700万円の損害賠償を命令します。控訴審で6000万円の支払いと謝罪を条件に和解しました。和解条項の中で明示されたのは、「防災マニュアルの充実と周知徹底、 避難訓練の実施や職員の防災意識の向上など、日ごろからの防災体制の構築が極めて重要」であり、幼稚園では「津波に対する防災体制が十分でなかった」ことでした。日頃から、顧客や従業員に対して十分に安全配慮義務を行う必要があり、実際の対策として取り組まねばならないという事前の備えの重要性が指摘されています。

 
■銀行支店(女川町)
支店長の指示で屋上に避難したところを津波に襲われ、支店長を含む12人が死亡したり行方不明になったりしました。遺族3組が銀行を提訴しましたが、1審、2審とも訴えを退けられ、最高裁で遺族の敗訴が確定しました。通常の避難場所ではなく支店の屋上へ避難指示を出したのは安全配慮義務違反にあたるのかが争点となりました。安全配慮義務違反で訴えられた事例としては幼稚園のケースと同じなのですが、銀行の場合、当時のハザードマップで示された津波予測の高さは最大で6メートル弱だったのに対し、支店屋上の高さは10メートルで、当時の想定では予測できない高さの津波がきたことや、銀行内でマニュアル作成や訓練の実施など、防災体制の整備がなされており、実際の地震発生後も津波襲来までの情報収集や避難の指示などの対応がとられていたことから、幼稚園の場合とは正反対の判決になりました。

 
■小学校(東松島市)
体育館に避難した住民18人以上が津波に襲われ犠牲となりました。また学校から同級生の親に引き渡されて帰宅した児童が死亡しました。死亡した児童の遺族が市を提訴し、1審、2審は児童を保護する義務が学校にあったとして2650万円の賠償命令を出し、最高裁で遺族の勝訴が確定しました。学校側が児童を引き渡した判断の是非が問題とされてましたが、津波浸水予測区域を通過する帰宅ルートだったことから、児童を帰宅させることで津波に巻き込まれる可能性を予見できたとして、児童を引き渡した学校側の敗訴となりました。

 
■地区防災センター(釜石市)
津波のときの避難場所でないことを知らずに多くの人が避難して津波に襲われ、推計で162人が犠牲になりました。遺族2組が市を提訴し、1審は請求棄却でしたが、1組の遺族が控訴し、2審で和解しました。地区防災センターは津波時の避難場所ではなかったのですが、震災の8日前に津波の避難訓練に使われたことから大勢の人が避難してしまいました。市が周知する義務を怠ったと、行政としての責任を認めておわびを表明し、約49万円を支払う和解内容となりました。

 
■小学校(石巻市)
地震発生時に津波の危険性があったにもかかわらず裏山に逃げずに校庭にとどまり、児童74人、教職員10人が死亡あるいは行方不明になりました。遺族23組が市を提訴し、1審、2審は賠償命令を下しました。最高裁で、事前の対策不足を認めて14億円あまりの損害賠償が確定しました。1審では地震発生後から津波襲来までの判断や避難誘導のあり方についての問題が指摘されました。また2審では、津波に対する危険性の予測やマニュアル整備などの事前対策の不備が指摘され、学校側に厳しい安全確保の義務を求める結果となりました。

 
■自治体(名取市)
防災無線の故障で避難指示が住民に伝わらず、750人以上が津波被害で犠牲になりました。遺族4組が市を提訴し、1審は無線の故障と死亡との因果関係を否定して請求棄却しましたが、控訴審で和解が確定しました。和解内容では、防災機器を設置した後の機器の被災を予測した点検や故障時の対策不備、想定外の事態が起きたときの状況判断を誤り、適切な代替処置をとらなかった非常時対応の不備、被害が起きてしまった後の検証の甘さが指摘されました。

 
これらの訴訟で指摘された内容をみていると、突然の災害発生に対して命を守るための安全配慮義務では、(1)最悪を想定した事前の予測と防止策の措置、(2)想定外の事態も意識した対応マニュアルの整備、(3)いざというときに適切に行動できるよう周知の徹底と訓練の実施、(4)被害発生後の真摯な検証と公表、といった、危機管理に共通するポイントが浮かび上がってきます。

先のみえない感染症対応に追われる中ですが、こうした自然災害の集団訴訟から学べることはたくさんあります。訴訟事例を教訓に、自社の防止策や訓練内容、広報体制などを見直してみてはいかがでしょうか。

 

防災ログ事務局:南部優子


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