熊本地震の地盤災害調査報告書 コラム

2017年5月11日

5月11日

福岡大学 工学部 建築学科 教授
高山 峯夫

地盤工学会から『平成28年熊本地震 地盤災害調査報告書』が出版された。

内容は、阿蘇大橋に代表される斜面崩壊(土砂災害)、地盤陥没や液状化、橋梁やのり面などの構造物被害、災害廃棄物、そして熊本城の石垣や石橋などの歴史的遺産関連の調査報告などとなっている。

益城町の地盤変状については、「建物周りの沈下、建物の傾斜および不同沈下、擁壁や水路などの倒壊・破損、マンホールの浮き上がりや道路の凹凸、電柱の沈下・傾斜、井戸の破損など多様な被害が生じている。本調査では、明瞭な噴砂跡は確認できなかったが、自然地盤の液状化による被害と埋戻し土のそれとが混在しているように見受けられた。また液状化に起因する被害だけでなく、粘性土やその他の土質による地盤変状が生じている可能性も否定できない」と書かれている。

建物被害との関係については、「液状化に起因する被害だけでなく、宅地地盤の変状、とりわけ、擁壁等壁体構造物が、基礎地盤の支持力不足によるめり込みと損傷により大きく地盤変位が生じ、建物被害を甚大化させた様子がうかがえた。場所によっては、広い範囲にわたって地すべり的な滑動を生じている可能性もある」とし、詳細な調査が必要としている。

益城町における特徴的地盤災害として、「益城町の宅地の被害は甚大で、家屋の倒壊の要因は建物そのものの問題もあるが、擁壁の倒壊、水路へのはらみ出しなど、地盤変状に起因する宅地と建物被害が顕著である。また、熊本市沼津山地区同様、場所によっては湧水が豊富で、この湧水が被害を拡大させた可能性が考えられる」という。

湧水は自然自噴ではなく、40m、70mの被圧帯水層へ管を挿入し、ポンプを利用することなく自噴させて利用されている。この自噴管および地区の排水路が長年の利用(くわえて地震の揺れによって)で損傷を受けていれば、表層地盤への漏水浸透が生じ、表層の不圧地下水の水位を押し上げ、造成地盤を不安定化させた可能性もある。

益城町の表層地盤は、火山灰質粘性土であり、N値は非常に小さい(10以下)。さらに盛土造成によって擁壁のタイプによっては耐震性が十分ではない可能性もある。建物の耐震性が確保されていても、宅地の耐震化が不十分である場合には、建物被害が生じる可能性がある。

建物が建つ地盤の耐震性にも気を付けるべきだろう。
聞いた話だが、益城町のある工務店が建てた住宅はすべて無被害だったそうだ。この工務店ではすべての住宅で地盤改良を行っていたとのことで、こうした取り組みが被害を抑制できた可能性もある。


福岡大学 工学部 建築学科 教授
高山 峯夫
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