新耐震基準ではなく余力が倒壊を防いだ コラム
2017年4月23日
4月19日
福岡大学 工学部 建築学科
高山峯夫 教授
日経ホームビルダーに東京大学名誉教授の坂本 功先生の講演内容が紹介されていた。記事を抜粋して紹介する。
「2000年以降につくられた木造住宅の倒壊が2.3%にとどまったのは“余力”のおかげ。新耐震基準を守っていたからだとするのは誤解を与える」。坂本功・東京大学名誉教授は建築研究所が開催した研究成果発表会の特別講演でこう訴えた。
倒壊から木造住宅を守った理由の1つは、2000年に実施した「基準の明確化」にある。阪神大震災で顕在化した問題への対応として、接合部の仕様規定と耐力壁のつり合いのよい配置(四分割法)を告示に盛り込んだことが効果を発揮した。81年の新耐震基準、95年の阪神大震災に並ぶ、木造住宅の耐震基準の大きな節目と言えるものだ。
一方で、熊本地震で被害が大きかった住宅のなかに、新耐震基準でつくられ、接合部の緊結が不十分なものが少なからずあることも判明した。私は81年~00年以前の住宅に耐震性の低いものが含まれる問題を「8100問題」と呼び、かねてから危惧していた。熊本地震で図らずも実証されてしまった。
倒壊から守ったもう1つの理由は余力にある。新耐震基準の木造住宅は多くの余力に助けられて倒壊を免れている、というのが私の持論だ。壁量については、新耐震基準以降見直しがないので、2000年基準も新耐震基準と同じだ。
私自身は、そろそろ新耐震基準を見直す準備をするのがよいと思っている。
耐震基準は、地震で大きな被害が生じて見直すという歴史を繰り返してきた。福井地震後の1950年に壁量規定を設ける、十勝沖地震と宮城県沖地震後の1981年に新耐震基準をつくる、阪神大震災後の2000年に基準を明確化する、といった具合だ。こうした大きな見直しは概ね30年おきで行われているので、「30年周期説」を私は唱える。
新耐震基準から数えると今年は36年目になり、見直してもよい時期を迎えている。
「新耐震+2000年基準は有効だった」という思考で止まることは危険だ。将来もっと大きな被害に遭遇する可能性が高い。木造住宅の研究者や役人は次に大震災が来た時、速やかに耐震基準の見直しができるよう、常に準備を進めておくことが重要だ。
その際は新耐震基準の枠組みにとらわれず、新耐震基準をつくった当時の精神に倣い、本音で設計できる新しい基準づくりに取り組んでほしい。新たな耐震設計では、想定外の地震動が来るリスクに備えるのも重要だ。例えば、軸組工法で耐力壁が壊れたときや、石場建てで足元が滑ったときなどの対策を考えることだ。
木造住宅を設計する人には、3つの頼みがある。
構造計画を考えること、
現行の耐震基準を守ること、
構造的、耐震的に余裕のある設計をすることだ。
新耐震基準の3倍に当たる耐震等級5を目指してほしい。
「余力」というのは、木造に限らず、これまでも言われてきていた。しかし、最近あまり聞かなくなったように感じる・・・
「余力」を定量化することが難しいから、余力と言われてきたのではないだろうか。「余力」を生み出すためには、地震時の挙動を理解した適切な構造計画がなされていることが必要だろう。事実、益城町で甚大な被害が出た地域でも、2000年以前の住宅でもほぼ無被害といえる住宅はあった。数は少ないけど。
耐震基準や建設年代(経年)だけではなく、住宅の構造設計(基礎構造も含めて)と施工が適切に行われていることが大事だと思われる。
福岡大学 工学部 建築学科
高山峯夫 教授
http://blog.livedoor.jp/mineot/archives/52127870.html