Yahoo!ニュース 個人:富士山は本当に大噴火するのか? 近い将来に起きると考えられる理由 コラム

2017年8月27日

8月27日

神戸大学海洋底探査センター 巽好幸 教授

(6月23日Yahoo!掲載記事)日本列島に111ある活火山の中でも、注目度ナンバーワンはやはり富士山だろう。活火山なのだからいつマグマを噴き上げてもおかしくない上に、都心からも見える距離にある。そして何より、日本人はその気高いまでの美しさが大好きだ。しかしそれはうつろいゆくもの、諸行無常の姿である。大噴火や山体崩壊は必ず起きる。富士山大噴火を考える前に、まずはっきりさせておきたいことがある。

現状では科学的に噴火のXデーを予知することはできない。

ある「専門家」は2014±5年(2009年から2019年の間)に富士山が噴火すると述べているが、これは「予言」である。つまり、科学的根拠はない(詳しくは「富士山大噴火と阿蘇山大爆発」に)。

 

噴火予知は可能か?

地震や噴火を予知するとは、前兆現象に基づいて、いつ、どこで、どれくらいの規模の活動が起きるかを前もって知ることである。地震については科学的に確かな前兆現象は確認できていない。だから現状では地震予知はできない。マスコミなどでしばしば取り上げられる地震予知も全て、予言の類である。

一方で火山の噴火では、明らかな前兆現象が検知できる場合がある。火山性地震や山体膨張などだ。例えば、2000年の北海道・有珠山の噴火では、北海道大学がこれらの前兆現象を捉えて144時間以内に噴火すると発表した。そして実際143時間後に噴火が始まった。

それでもなお、噴火予知は極めて困難だ。最大の理由は火山が非常に個性豊かなことにある。だから、有珠山での予知成功例は富士山に適用することはできない。また有珠山については過去の「病歴」がしっかりとカルテに記録されており、この患者の様子を常に見守る「ホームドクター」がいた。こんな火山は日本ではわずか数箇所である。富士山では数十箇所に様々な観測装置が配置され監視が行われているが、何せ先の300年以上前の噴火についての観測データは皆無である。

富士山大噴火は近いと考える理由

数十万年前に誕生した富士山は4階建てだ。現在でも建設中の最上階は約1万年前から作り始められた。その中でも噴火年代とマグマの噴出量が正確に分かっている9世紀以降を見ると、図に示したような関係が見えてくる。

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富士山はこの間に2度の日本史上最大クラスの大噴火を起こし、この大噴火の時期と規模の関係は、最近3600年間の平均噴出率とよく一致する。したがって、この関係を使って大噴火が起きる時期をおおよそ見積もることができそうだ。

仮にこの関係が将来にも当てはまるとすれば、次の大噴火は2150年くらいと予想できる。

じゃあ、まだ100年くらいは大丈夫なのか? 残念ながらそう安心しない方が良い。というのも、3・11超巨大地震が起きたために、東北地方から富士山の周辺域までの広い範囲で地盤の状態が変化したのだ。ぎゅっと押し縮められていた地盤が、逆に緩んだ状態となった。こうなるとマグマが活発化して噴火が起こりやすくなる。さらにこの「異常状態」はまだ数十年以上も続くと考えられる。つまり、3・11をきっかけに富士山は一触即発状態に入ったと見るべきだ。

富士山が1707年の宝永噴火と同じような大噴火を起こすと、都心でも数センチメートルの火山灰が降る。大混乱は必至だ。公表されているハザードマップをしっかりと眺めて備えることが必要である。また、富士山のマグマは流動性に富み移動速度が大きいために、たとえ観測網が前兆現象を捉えたとしても、その直後に噴火が始まる可能性もある。この山の下には活動的なマグマが息をひそめていることを肝に命じておいてほしい。

Yahoo!ニュース 個人
https://news.yahoo.co.jp/byline/tatsumiyoshiyuki/20170623-00072425/


 

profile-1488764825神戸大学海洋底探査センター
巽好幸 教授

 

1954年大阪生まれ。京都大学総合人間学部教授、同大学院理学研究科教授、東京大学海洋研究所教授、海洋研究開発機構プログラムディレクター、神戸大学大学院理学研究科教授などを経て2016年から現職。水惑星地球の進化や超巨大噴火のメカニズムを「マグマ学」の視点で考えている。日本地質学会賞、日本火山学会賞、米国地球物理学連合ボーエン賞、井植文化賞などを受賞。主な一般向け著書に、『地球の中心で何が起きているのか』『富士山大噴火と阿蘇山大爆発』(幻冬舎新書)、『地震と噴火は必ず起こる』(新潮選書)、『なぜ地球だけに陸と海があるのか』『和食はなぜ美味しい –日本列島の贈り物』(岩波書店)がある。


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