草津白根山噴火、そして蔵王山の異常:火山が荒ぶる原因は? コラム
2018年2月24日
2月24日
神戸大学海洋底探査センター 巽好幸 教授
戦後最悪の火山災害となった御嶽山噴火(2014年9月27日)に続いて、草津白根山の噴火でまたもや犠牲者が出た。いずれの場合も気象庁発表の噴火警戒レベルは1(活火山であることに留意)だったことから、現状の火山監視体制を見直す必要があることは間違いない。地球上の活火山の約7%が密集するこの火山大国では、先端的な火山研究の推進と火山に寄り添う「ホームドクターチーム」による火山監視、それに人材育成などを一元的に担う組織(例えば「火山庁」)が必要不可欠であろう。
そんな中1月30日には、山形・宮城県境にある蔵王山で地下のマグマ、火山ガスや熱水などの活動を示す火山性微動が発生し、山頂の南側では山体の隆起も観測された。これらを受けて気象庁は噴火レベルを2(火口周辺規制)へと引き上げた。
いくつかのメディアから「草津白根山と蔵王山の活動は連動しているのか?」という問い合わせがあった。決して火山の地下でマグマ同士がつながっているわけではないので、噴火の連鎖はありえない。しかし、もうすぐ発生後8年になる3・11超巨大地震の影響で、東北から関東地方の火山は「臨界状態」にある可能性がある。
3・11超巨大地震が日本列島を引き伸ばした
あの超巨大地震は、太平洋プレートが日本海溝から沈み込むことで海溝の内側(西側)の地盤に溜まった歪みが一気に解放されたために起きた。その結果、地震発生前には押し縮められていた日本列島の地盤が、発生後には引き伸ばされることになった。このことは、GPSの観測データを見ると一目瞭然である。
3・11前後の地盤の状態(著者作成)。超巨大地震の発生によって、東北から関東地方の地盤が引き伸ばされた状態となった。
3・11以前は一部の地域を除いて日本列島はギュウギュウと押し縮められていた。その原因は、南海トラフから沈み込むフィリピン海プレートと日本海溝から沈み込む太平洋プレートの運動にある。しかし、3・11超巨大地震が日本海溝沿いの歪みを解放した結果、東北地方から関東地方にかけての広い地域で、地盤はそれまでとは逆に引っ張られる状態に変化したのだ。この異常領域の西端は、ほぼ日本列島を南北に貫く糸魚川ー静岡構造線、つまり北米プレートとユーラシアプレートの境界と一致する。
地盤が引き伸ばされると活性化するマグマ溜り
火山の直下には、噴火を引き起こすマグマが蓄えられている。「マグマ溜り」だ。海溝型巨大地震の発生によって日本列島の地盤が引き伸ばされると、このマグマ溜りはどうなるのか?(詳しくは「富士山大噴火と阿蘇山大爆発」に)
コンビニで買った缶ビールを袋の中でガチャガチャいわせて持ち帰り、いざ栓を開けるとアブクとビールが溢れ出す。そんな苦い経験をお持ちの方も多いだろう。栓を開けたことで缶の中の圧力が一気に下がり、それがきっかけで、ビールに溶け込んでいた揮発性成分(この場合は二酸化炭素)が発泡して体積が劇的に増加したために「爆発」したのだ。
マグマ溜りで同様のことが起きる可能性がある。それまでぎゅっと押し縮められていたのに、地震発生後は引き伸ばされたために圧力が下がり、マグマの中に溶け込んでいた水分や二酸化炭素が水蒸気や炭酸ガス化するのだ。その圧力が十分に大きいと地盤に割れ目を作ってガスやマグマが上昇し、噴火に至る可能性がある。
図に示すように、東北地方から関東地方にかけてのいくつかの活火山では(草津白根山や蔵王山も含めて)3・11以降に火山性地震の異常が認められた。もちろん、日常的な火山の「息づかい」である可能性もあるが、超巨大地震によって引き起こされた地盤の変化が、マグマ活動を活性化させたことも十分に考えられる。富士山も例外ではない(「富士山は本当に大噴火するのか? 近い将来に起きると考えられる理由」)。ここで述べたような地盤の異常は、まだ数十年は続くと考えられる。今後もこの地域の火山は「臨界状態」にあると考えておく必要があろう。
3・11以降には、御嶽山を始め、阿蘇山、霧島山、桜島、口永良部島、それに西之島でも噴火が認められた。一部の「専門家」はこれらも超巨大地震の影響で日本列島全体が異常状態になったのだと述べている。しかし図を見れば明らかなように、これらの火山がある地域では、地盤の状態は全く変化していない。つまり、これらの噴火は火山の「息づかい」そのものなのだ。
活火山だけが危ないわけではない
活火山とは、おおよそ1万年前以降に活動した火山をさす。これらの活火山は、3・11に関係なく、いつ噴火してもおかしくない火山である。しかし、備えるべき火山はこれだけではない。実は火山の「寿命」は1万年よりははるかに長く、数十万年~100万年以上あるのだ。
例えば富士山は4階建の火山であり、最上階が約1万年前からの活動で造られたのだが、その「建造」が始まったのは数十万年前のことである。つまり、活火山以外の火山もまだまだ活動を再開するエネルギーを秘めているのだ。その数は300以上に及ぶ。是非一度「日本列島の第四紀火山の分布」をご覧いただきたい。そして、これらの優美な火山が、一変荒ぶる表情を見せる可能性があることを忘れないで欲しい。
Yahoo!ニュース 個人(1月31日掲載)
https://news.yahoo.co.jp/byline/tatsumiyoshiyuki/20180131-00081069/
1954年大阪生まれ。京都大学総合人間学部教授、同大学院理学研究科教授、東京大学海洋研究所教授、海洋研究開発機構プログラムディレクター、神戸大学大学院理学研究科教授などを経て2016年から現職。水惑星地球の進化や超巨大噴火のメカニズムを「マグマ学」の視点で考えている。日本地質学会賞、日本火山学会賞、米国地球物理学連合ボーエン賞、井植文化賞などを受賞。主な一般向け著書に、『地球の中心で何が起きているのか』『富士山大噴火と阿蘇山大爆発』(幻冬舎新書)、『地震と噴火は必ず起こる』(新潮選書)、『なぜ地球だけに陸と海があるのか』『和食はなぜ美味しい –日本列島の贈り物』(岩波書店)がある。