東日本大震災から6年経った福島を訪ねる(前編) コラム
2017年4月25日
4月24日
潜入!廃炉実現のカギ握る巨大な実験施設
東京電力福島第一原子力発電所の事故から6年、3月31日に福島県浪江町、そして4月1日に富岡町の避難指示が解除された。避難指示が解除された自治体は、楢葉町、南相馬市などに続いて9つ目となった。福島第一原発の廃炉計画は少しずつではあるが前進している。去年4月には楢葉町に廃炉に向けた様々な実験を行う『楢葉遠隔技術開発センター』が完成した。設立から1年、その実態を”防災の鬼”渡辺実氏が視察した。
福島県楢葉町。事故当時は原発事故の対策拠点となったJビレッジの近くに「楢葉遠隔技術実験センター(以下実験センター)」はある。建物、設備に100億円あまりをかけて作られた巨大施設だが、残念ながらその存在はあまり知られていない。
“ぶら防”ではこれまで何度か福島の原発をリポートしている。建設途中の実験センターを渡辺氏も見ている。今回視察に向かう車の中で渡辺氏はこんなことを語った。
「避難指示は多い時で福島県内の11の市町村に出されていた。4月1日以降でも避難指示区域とされているのは大熊町や双葉町をはじめとする7つの市町村の帰還困難区域など、最も多かった時の約3分の1の規模にまで縮小したわけです。でもね、4月1日をもってこのエリアの環境が劇的に改善されたわけではない。避難指示解除に伴う社会インフラ整備の遅れや帰還する住民の生活再建、帰還困難区域の今後は? 等々、問題は今でも山積みです。実験センターがそうした問題を解決する足がかりになればと期待しているんだけど、どうだろうね」
現地で迎えてくれたのは日本原子力研究開発機構福島研究開発部門次長の小島久幸氏だ。まずは施設の概要をうかがった。
「楢葉遠隔技術開発センターは、研究管理棟と試験棟という2つの建物で構成されています。主な用途は福島第一原子力発電所の廃炉措置を推進させるために各種ロボットなど、遠隔操作で事故に対処する機器の開発と実証実験を行うことです」(小島氏)
同実験センターは2015年9月に一部の運用が始まり、16年4月に本格運用がスタートした。
燃料デブリの処理をシミュレーション
「実際にどういった施設で構成されているんですか?」(渡辺氏)
「研究管理棟は廃炉に向けた作業者訓練を行うための最新のバーチャルリアリティーシステムなどを備えた施設です。また試験棟は原子炉の廃炉措置技術の実証試験や遠隔操作機器の開発実証試験を行うための施設です。ここには原子炉内の圧力抑制室(サプレッションプール)の実物大のものを、8分の1にカットしたモックアップも設備されています」(小島氏)
「サプレッションプールとは原子炉圧力容器の一番下に位置する部分ですね。約3000トンの水をためたドーナツ状のプールです。事故や何かしらの不具合で原子炉格納容器の圧力が上昇した場合、このプールの水で冷却し、圧力を低下させるわけだけど、福島第一原発では、どうやらこのプールのどこかに穴が開いていて、いくら水を入れても必要な水位を保つことができていませんね」(渡辺氏)
実際のモックアップを設置する様子。現在は壁に覆われており、全体を見ることはできない。
どこに穴が開いているのか、放射線量が高すぎて人間が中に入って見に行くことはできない。遠隔操作のロボットを投入するなどして調査が行われているのだが、今のところ穴の正確な位置は特定できていない。
「福島第一原発の廃炉に向けた行程で、最も重要で難しいのが燃料デブリの処理です」(小島氏)
燃料デブリとは、原子炉の事故によって炉内の温度管理設備が機能しなくなったことで溶け落ちた核燃料が原子炉のコンクリートや金属と混ざり合い、冷えて固まったものだ。これを取り出すことが廃炉作業の最大のネックとされている。
福島第一原発2号機の格納容器の内部をカメラで確認する調査が今年1月30日に行われた。容器真下の床に、黒い堆積物が確認されたのだが、これが燃料デブリの可能性があると見られている。
燃料デブリを取り出す作業については、東京電力が分かりやすい動画を公開しているので参照して頂きたい。
東京電力が公開した画像。作業用の足場に燃料デブリと思われる堆積物がこびりついている
雇用の拡大にも貢献
「当実験センターは、福島県のイノベーション・コースト構想の一翼を担う施設です。イノベーション・コースト構想とは原発事故によって失われた福島県の浜通り地域の産業基盤の再構築を目指したものです」(小島氏)
楢葉遠隔技術開発センターなどのロボット技術の研究開発拠点をはじめ、イノベーション・コースト構想は、再生可能エネルギーや次世代エネルギー技術の積極導入や先端技術を活用した農林水産業の再生、また原発事故後の未来を担う人材の育成などを視野に入れた国家プロジェクトである。