被害地震の経験から立ち上がり進化し続ける 建築構造技術と建築構造設計 コラム

2017年6月24日

6月24日

東京理科大学 工学部 建築学科 教授 髙橋 治

はじめに

2008年1月号(通巻283号)の「理大 科学 フォーラム」誌に,取得学位に関する内容 「減衰特性および各種依存性を考慮したブレ ース型オイルダンパーの開発と解析モデルに 関する研究」として執筆させていただいて以 来となる(写真1)。2008年当時の筆者は, 建築構造計算プログラムも開発・販売してい る構造設計事務所で構造設計者として働いて いた。構造設計をしている中で,自ら考案および開発して実物大実験などの裏付けで実用性を確認し,実建物に世界で初めて装着したのが,ブレース型オイルダンパーとなる。

兵庫県南部地震(1995年)を経験
機械分野に学んだ➡オイルダンパーによる振 動制御
兵庫県南部地震を経験し,世の中では新し い構造システム(免震・制振構造)の建物が 市民やエンジニアなどによるリベンジへの期待を込めて爆発的に建設され ていた。そんな折に関わった のが,1995年に構造設計した「渋谷セルリアンタワー」(写 真2)と「関東郵政局等庁 舎」である。前者は HMD(ハ イブリッドマスダンパー)を 後者は粘性制振壁を100m 超 えの超高層建物で初めて採用 した(写真3)。

1996年12月,所属していた 構造設計事務所で「本社ビル 建設委員会」が発足し,全所 員が参加の自社ビルイメージ コンペが実施された。建築に 関係ない所員も参加できるよ うに,表現方法は自由,図面 でなく文章でも標語でも良か った。要求は,ただ一つ「爽 やかな5月の風が吹き抜けた あとのような雰囲気の建物」であった。

結果,20代の筆者が優秀提案賞を受賞し構造設計リーダーを任された。まず,取り掛か ったのは建物の設計外乱(荷重)と設計クラ イテリア(目標)の設定および新たな制振シ ステムの模索であった。これまでの構造設計 経験で感じていた不満があった。マスダンパ ーは定常波にしか効果がなく,粘性制振壁は 温度依存性が激しいため設計時バラツキ検討 のために3倍以上の手間がかかる(構造計算 書も厚くなる)。そこで,オイルダン パーに注目し,ちょうど筆者の上の子 が電車小僧で毎週のように秋葉原にあ った鉄道博物館に通っていた時期であ る。新幹線車両のオイルダンパーを設 計,製造していたカヤバ工業(株)の 担当者に建物へオイルダンパーを採用 したいとの思いをぶつけ,毎日のよう に機構や理論を学び,いろいろと雑談 をさせてもらった。

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